古い像と新しい石像が、同じ週に置かれる。23日に熱海で開いた仏像展は、奈良と平安にさかのぼる12体を並べた。24日は渋谷で、戦後のぬりえを描いた画家が絹に描いた肉筆画が出る。27日には京都・清水寺の塔頭に、17体の石の人物像が入る。30日は三つ重なる日だ。愛知で明治期のコレクション、銀座で今年のADC賞、鹿児島の離島で10万年ぶんの地層が、それぞれ展示になる。ニューヨークでは、マンガの原画600点が美術館の一階を占めている。
仏像🇯🇵 静岡・熱海(10/23開幕)
重要文化財26体のうち、12体が山を下りてきた
「伊豆の仏像 PART1」が、10月23日(金)にMOA美術館で開幕した。静岡県河津町の南禅寺に伝わる重要文化財26体から、12体を選んで並べる。本尊の薬師如来坐像は平安時代(9世紀後半から10世紀)、これに次ぐ十一面観音菩薩立像は奈良時代(8世紀)までさかのぼる。地蔵菩薩立像、梵天帝釈天立像、二天王立像も重要文化財だ。ふだんは寺に隣接する河津平安の仏像展示館で守られている像で、国の重要文化財に指定されたのは令和6年(2024)。伊豆最古の仏像群が指定を受けたのは、まだ2年前のことだ。会期は2027年1月3日(日)まで。開館は9時30分から16時30分(入館は16時まで)、木曜休館(祝休日は開館)。観覧料は一般2,000円、高校・大学生1,400円、中学生以下は無料。
💡 古いものが昔から有名だったとは限らない。誰かが調べて価値を言葉にするまで、ものは黙って待っている。
ぬりえ🇯🇵 東京・渋谷(10/24開幕)
駄菓子屋で売られていた紙が、50年かけて美術の話になった
「蔦谷喜一個展 ~曽田コレクション~」が、10月24日(土)から11月28日(土)までNANZUKAでひらく。蔦谷喜一(1914-2005、通称きいち)は、戦後の少女向けぬりえを描いた画家だ。東京・築地の紙問屋に生まれ、川端画学校の日本画科で学び、1940年にぬりえの制作を始めた。「きいちのぬりえ」は出版流通ではなく駄菓子屋で玩具として売られ、娯楽の少なかった戦後に一大ブームになる。60年代にマンガやアニメがテレビに出てくると下火になった。ギャラリーの資料によれば、美術の文脈で評価が変わった転機は2002年、パリのカルティエ現代美術財団で村上隆がキュレーションした「Coloriage(ぬりえ)」展だという。まるまるとした顔、大きすぎる瞳、三頭身、輪郭線で描かれた人物。竹久夢二から続く抒情画とは、はっきり違う形をしている。開廊は月曜から土曜の11時から19時、日曜休み。11月4日(水)から8日(日)は10時開廊。
💡 駄菓子屋の紙が、半世紀たってギャラリーの壁にかかる。いま描いているものの行き先も、まだ決まっていない。
現代美術🇯🇵 京都・清水(10/27開幕)
石工の父を見て育った作家が、寺の座敷に17体を置く
ウーゴ・ロンディノーネの日本初個展「静寂のかたち」が、10月27日(火)から11月12日(木)まで清水寺 成就院でひらく。名勝「月の庭」で知られる塔頭の室内に、大きさの異なる17体の石の人物像が並ぶ。床の間には、赤と黒の同心円で太陽を描いた絵画が1点。西門のふもとには、青と白に彩られた僧侶の彫刻が、祥雲青龍像と並んで立つ。これらの石彫の原初的なシルエットは、イヌイット文化の石積み「イヌクシュク」を想起させる。ギャラリーの資料によれば、作家の父は石工だった。開館は9時30分から17時まで。
💡 作家の原点は、たいてい身近なところにある。親の仕事、通学路、子どものころ好きだったもの。そこから始めていい。
日本画🇯🇵 愛知・栄(10/30開幕)
没後100年の収集家の名前が、そのまま展覧会の題になった
「ビゲロー 幻のコレクションと近代日本画の夜明け──日本美術に魅せられたボストン人──」が、10月30日(金)に愛知県美術館で開幕する。ウィリアム・ビゲローは明治期に来日したボストンの医師で、今年が没後100年にあたる。前期(10月30日から11月15日)と後期(11月17日から12月13日)で展示を入れ替え、各期およそ100点。喜多川歌麿《太夫と禿図》は前期のみ。狩野芳崖《悲母観音》が出るのは、後期のうち12月1日(火)から13日(日)だけだ。ビゲローが持っていて、いまは愛知県美術館が所蔵する橋本雅邦《秋景山水図》も並ぶ。開館は10時から17時、金曜は20時まで(入場は閉館30分前まで)。休館は11月2日・16日・30日と12月7日の月曜4日。観覧料は当日で一般1,900円、大学生1,000円、高校生800円、中学生以下は無料。
💡 「誰が集めたか」で作品の並びは変わる。美術館を歩くことは、収集した人の目を借りて見ることでもある。
科学と芸術🇯🇵 鹿児島・喜界島(10/30開幕)
10万年ぶんの地層を、映像と音と光に置き換える
「さんごの島科学芸術祭2026」が、10月30日(金)から11月8日(日)まで鹿児島県の喜界島でひらく。初開催だ。隆起したサンゴ礁が記録してきた約10万年ぶんの地球環境の情報を、映像・音響・光の作品に置き換える。会場はスギラビーチ、第一地下ダムトンネル、小野津神宮公民館、喜界島サンゴ礁科学研究所など島内6か所で、鑑賞は無料。総合プロデューサーは渡邊剛、エグゼクティブアートディレクターは長谷川祐子。参加作家は宮尾昇陽、立石従寛、八木夕菜、山崎敦子の4人だ。11月6日から9日には日本サンゴ礁学会が併催される。
💡 研究と作品は別ものに見える。けれど同じ一つのデータから、論文も展示も生まれている。
デザイン🇯🇵 東京・銀座(10/30開幕)
約6000点から選ばれた14点が、年鑑より先に壁に出る
「日本のアートディレクション展 2026」が、10月30日(金)から11月30日(月)までギンザ・グラフィック・ギャラリーでひらく。東京アートディレクターズクラブ(ADC)の全会員が審査員を務める年次公募展で、今年は約6000点の応募があった。選ばれたのはADCグランプリ1点、ADC賞9点、ADC会員賞3点、原弘賞1点。受賞作と優秀作を、年鑑が出るより先に見せる展覧会だ。ひとりの審査員の好みではなく、アートディレクションの現在地がそのまま壁に並ぶ。gggの第417回企画展にあたる。
💡 6000分の14。落ちた作品にも、同じだけの時間がかかっている。通ったものだけを見ていると、そこを見落とす。
マンガ🇺🇸 ニューヨーク(開催中)
アメリカ大陸で初めて、マンガが美術として並んだ
ブルックリン美術館の「Art of Manga」が10月3日(土)に開幕した。600点を超える原画が、美術館1階のグレートホールに並ぶ。美術館のプレスリリースによれば、マンガを美術のひとつとして見せる大規模展は、アメリカ大陸では初めてだという。企画したのはサンフランシスコのファイン・アーツ・ミュージアムズで、両会場の監修はイースト・アングリア大学のニコール・クーリッジ・ラウスマニエールが務める。ブルックリンの担当学芸員ジョーン・カミンズは「アメリカの観客が日本のマンガの原画を見る機会はほとんどない。これだけまとまった数となればなおさらだ」と述べている。リリースの画像クレジットには、高橋留美子、谷口ジロー、ちばてつや、赤塚不二夫、荒木飛呂彦、よしながふみ、尾田栄一郎らの名が並ぶ。リリースはマンガを、日本のコミックとグラフィックノベルの革新的なジャンルだと説明している。多くの作家は、いまも紙にインクで手描きしている。
💡 毎週ふつうに読んでいたものが、海の向こうでは美術館の一階を占めている。距離が変わると、見え方も変わる。
今週はここまで。
今週並ぶものは、時間の尺度がばらばらだ。喜界島の地層は10万年、南禅寺の像は千年、ビゲローの収集は百年前、ADC賞は一年ぶんの仕事。きいちのぬりえは、駄菓子屋の店先から美術の話題になるまでに半世紀かかった。清水寺の17体は、人ひとりの一生よりずっと長い力で石が形づくられたことを示そうとしている。長い時間のものと短い時間のものが、同じ週の同じ画面に並ぶ。自分がいま描いているものがどの尺度で残るのかは、描いている最中にはわからない。わからないまま手を動かすしかない。次号もお楽しみに。
編集:東洋美術学校 | study.to-bi.ac.jp ・ 全記事 出典リンク付きの要約です