彫刻家が天井の照明をつくり、音楽家が“歩いて見る音楽”の部屋をつくり、服づくりの会社が捨てるはずの紙から作品を生む。この夏の展覧会は、「アート」と「デザイン」「音楽」「建築」の境い目が、とけていく現場ばかりだ。つくる人は、ひとつの肩書きにおさまらなくていい――そう思える6つを、3分で。
音とアート🇯🇵 東京・麻布台
音楽家がつくる、“歩いて見る音楽”の部屋
8月28日〜10月25日、麻布台ヒルズギャラリーで 「RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI AMBIENT KYOTO - TOKYO」。音楽家・坂本龍一(1952–2023)と、映像作家・高谷史郎(ダムタイプ)による《async - immersion》を展示する。坂本が2017年に発表したアルバム『async』をもとに、高谷の映像と、音響エンジニアZAKによる立体音響を、幅26.4メートルの巨大スクリーンで体感する没入空間だ。音楽はふつう「耳で聴くもの」だが、ここでは音と映像が空間そのものになる。京都で始まった「AMBIENT KYOTO」の、東京初開催。
💡 話せるタネ音楽・映像・空間デザインが一つになると、“聴く”はずの音楽が“歩いて見る”体験に変わる。つくる仕事は、ジャンルを混ぜていい。
越境する造形🇯🇵 東京・清澄白河
彫刻家が、天井の照明も、建物の壁もつくる
8月29日〜12月6日、東京都現代美術館で 「多田美波―光、凛と ゆれる」。戦後日本を代表する造形作家・多田美波(1924–2014)の、没後初となる大規模回顧展だ。多田は「彫刻家」と呼ばれながら、美術館に置く彫刻だけでなく、ビルの壁面(ファサード)、天井のシャンデリア、照明器具まで手がけた。美術・建築・デザインの境目を、約70年にわたって行き来した人だ。ガラスや金属で光をとらえる作品は、“これはアートか、デザインか”という問いそのものを、軽やかに越えていく。
💡 話せるタネ「彫刻家」でも、建物も照明もつくっていい。肩書きは、自分の仕事を狭めるためのものじゃない。
素材とデザイン🇯🇵 東京・六本木
服づくりで出る“捨てる紙”が、作品になる
8月13日〜9月13日、21_21 DESIGN SIGHTで 「ザ・ペーパーログ:膜と核 ― イッセイ ミヤケによるアンサンブル・スタジオとの協業プロジェクト」。イッセイ ミヤケのプリーツ製品をつくる工程で出る副産物「ペーパーログ(紙の芯)」に新しい価値を見いだそうと、Miyake Design Studioの近藤悟史が発案し、スペインの建築家集団アンサンブル・スタジオと協業した。今年のミラノデザインウィークで初公開したインスタレーションを、日本で初めて組み直して見せる。捨てられるはずの素材が、建築とデザインの手で“作品”に変わる(アップサイクル)。紙という素材の話は、回廊「紙と印刷のはじまり」ともつながる。
💡 話せるタネいいデザインは、新品の材料からだけ生まれるわけじゃない。「捨てるもの」を見直すのも、立派なつくる仕事。
キャラクターデザイン🇯🇵 横浜
50年たっても古びない、キャラクターの力
8月1日〜31日、そごう美術館(横浜)で 「The 50th Anniversary OSAMU GOODS展」。イラストレーター・原田治(1946–2016)が1976年に生み出した「OSAMU GOODS」は、マザーグースや1960年代アメリカの雑誌に出てくる女の子から着想したキャラクター群。文房具や雑貨になって、1970年代後半から90年代にかけて、中高生〜20代の女性を中心に絶大な人気を集めた。“絵”が日用品になり、暮らしの中の文化になった好例だ。生誕50年のいま、その古びないキャラクターデザインの秘密を、当時の資料でたどる。
💡 話せるタネキャラクターは、絵がうまいだけでは続かない。50年愛されるのは、「暮らしになじむ形」まで設計されているから。
絵本原画🇯🇵 秋田
印刷では消えてしまう、“原画”の手ざわり
8月8日〜10月4日、秋田県立近代美術館で特別展 「隙あらば猫 町田尚子絵本原画展」。絵本作家・町田尚子の、『ネコヅメのよる』『なまえのないねこ』『ねこはるすばん』などの原画とラフ、約300点を集めた大規模展だ。絵本は印刷されて本になるが、原画には、印刷では平らになってしまう絵の具の厚みや筆の勢い、下描きの迷いまで残っている。「隙あらば猫」は作者自身の口ぐせで、昔話も怪談も、物語のあちこちに猫が顔を出す。今回は秋田を舞台にした新作も描き下ろす。
💡 話せるタネ完成した本の“手前”には、原画がある。印刷でならされる前の、手の跡が見える場所。
イラスト国際賞🇬🇧 ロンドン
“広告の絵”も“子どもの本の絵”も、賞になる
ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)が、世界有数のイラスト賞 「V&A Illustration Awards 2026」 の受賞者を7月1日に発表した。2024〜2025年の作品から、1,600点を超える応募を審査。最高賞にあたる年間イラストレーター(Moira Gemmill賞)は、グラスゴーの街と人々を描いた広告キャンペーンのアナベル・ライト、子どもの本部門はバルジンダー・カウルが選ばれた。広告も、子ども向けの本も、新人の一作も、同じ“イラスト”として讃える――絵で伝える仕事の幅の広さがわかる賞だ。受賞作はV&Aで10月4日まで無料展示中。
💡 話せるタネイラストは「絵がうまい」だけの仕事じゃない。広告・絵本・報道――伝えたい中身に合わせて絵を設計する仕事だと、世界的な賞が示している。