01
砕いて、
練る
「絵具」の前に、物質があった。
南アフリカ・ブロンボス洞窟には、約10万年前にオーカーを砕き、骨や木炭と混ぜてアワビの殻に貯えた最古の顔料工房が残っていた(Science, 2011)。素材を選んで砕き、膠(にかわ)と練って、自分の絵具を作ろう。粗く砕けば濃く、細かくすれば淡い——日本画の岩絵具が「番手」で色を変える理由も、ここで体感できる。
02
色の、
値段
青は、性能ではなく身分だった。
色が物質だった時代、その値段は産地と手間で決まった。ラピスラズリから作る天然ウルトラマリン、貝から搾る紫——「高貴な色」は文字どおり高価な色だった。色の値段を、3問で。
03
時間と、
たたかう
色は、完成した日から変わりはじめる。
ポンペイの赤い壁(辰砂)は黒ずみ、17世紀の青(スマルト)は灰色に褪せ、ゴッホ《ひまわり》の黄(クロムイエロー)は褐色化が進んでいることが研究で分かっている。時間を進めて、4つの色の運命を見よう。そして「修復」を押すと——戻せる色と、戻せない色がある。
「青は、金より
— 天然ウルトラマリン(ラピスラズリ)。ルネサンス期には同じ重さの金より高価だった
高かった。」
1826年、ギメの合成ウルトラマリンが青の値段を崩し、1841年、ランドのチューブ絵具が画家を屋外へ連れ出した—— 息子ジャンの回想によれば、ルノワールは「チューブ絵具がなければ印象派は生まれなかった」という趣旨のことを語っている。 色が安く自由になっても、変わらないことがひとつ。色は生きていて、描かれた日から変わり続ける。 その変化を診断し、戻せるものを戻し、戻せないものを守るのが保存修復という仕事だ。 10万年分の色の歴史は、いまも現在進行形で手当てされている。