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TOBI STUDY | 東美スタディ ・ 今週のアートシーン

#17ルノワールは、日本に39枚いる

2026年9月22日号 ・ 近づいてくるアート6本 ・ 3分で読める
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ルノワールの絵は、日本にいま39枚ある。きょう9月22日(火)は敬老の日と秋分の日にはさまれた休日——その休みの日に静岡で開くのは、39枚を軸に、遠いフランスの画家がどうやって“わたしたちのルノワール”になったかをたどる展覧会だ。今週のアートは、美術館のなかでおとなしくしていない——下北沢では街の空き地に月が昇り、虎ノ門では映像が物の表面に憑き、渋谷では物語のない映画が渦を巻く。京都には手で織り上げた染織、大阪には少女マンガ50年分の原画。こちらへ近づいてくる6本を、3分で。

絵画🇯🇵 静岡(きょう9/22開幕)

日本にある39枚を集めて、「わたしたちのルノワール」を問い直す

静岡市美術館できょう9月22日(火)、「わたしたちのルノワール 日本が愛した、幸せの画家」が開幕する(〜11月15日)。軸になるのは、日本国内のコレクションが持つルノワール39枚。そこにモネやセザンヌら同時代の画家、さらにルノワールに憧れた日本の洋画家・梅原龍三郎や山下新太郎の作品を加え、約80点で構成する。並ぶのは絵だけではない——ルノワールを載せた雑誌、企業の広告、カレンダーも展示される。遠い外国の画家が複製と印刷を通じて茶の間に入り込み、いつしか“わたしたちの”と呼ばれるまでになった道のりを、まるごと見せる企画だ。熊本を皮切りに大分・東京・岡山へと1年かけて巡る巡回展(ひとつの展覧会が、会期をずらしながら複数の美術館をまわること)で、静岡はその2館目にあたる。

💡 話せるタネ「名画」は、最初から名画だったわけじゃない。誰かが雑誌に刷り、広告に使い、部屋に飾って“好き”を積み重ねた末に、遠い国の画家が“わたしたちの”になる。人気は、受け手の側がつくる。
染織🇯🇵 京都(9/19開幕)

図案から織りまで一人でやり切った人の全体像が、40年ぶりに並ぶ

京都市京セラ美術館で土曜9月19日、特別展「生誕140年記念 染織家 山鹿清華─宙翔ぶイマジネーション」が始まった(〜12月20日)。山鹿清華(1885–1981)は、明治から昭和にかけて活躍した染織(せんしょく。布を染め、糸を織って絵柄や形をつくる工芸の総称)の作家。下絵を描き、色を決め、機に向かって織り上げる——ふつうは何人もで分けあう工程を一人でやり切る「手織錦」という技法を、自分で考え出した。1927年には帝展で《和蘭陀船》が特選に選ばれ、工芸を「一人の作家の表現」へと押し上げた。その画業をたどる回顧展は、実に40年ぶりになる。

💡 話せるタネ「考える人」と「つくる人」は、分かれているのが当たり前だと思っていないか。清華は図案も配色も織りも手放さなかった。構想から仕上げまでを一人で握ると、作品はその人の頭のなかの景色そのものになる。
パブリックアート🇯🇵 東京・下北沢(開催中〜10/4)

下北沢の空き地や路地に、月が昇っている

世田谷・下北沢のまち全体を会場に、「ムーンアートナイト下北沢2026」が開かれている(9月18日〜10月4日、午後3時から夜9時まで)。駅前や線路の跡地、路地の空き地に、月をテーマにしたアート作品が点在する。目印は、街に浮かぶ巨大な月。美術館でチケットを買って静かに見るのではなく、買い物や食事のついでに、暗くなった街で作品と出くわす——そういうパブリックアート(街や駅前など公共の場所に置かれ、誰でも無料で出会えるアート)の祭りだ。音楽や演劇、映像も、街のあちこちに溶けこんでいる。

💡 話せるタネ作品を「見に行く」のと、歩いていて「出くわす」のとでは、体験がまるで違う。道の角で急に月に出会うと、見慣れた通学路や商店街が、その日だけ舞台に変わる。アートは、場所の見え方を書き換える道具でもある。
少女マンガ🇯🇵 大阪(9/27まで)

少女マンガ誌の50年が、原画200点で大阪にそろう

大阪・なんばパークスミュージアムで「創刊50周年記念LaLa原画展~魅惑のクリエイション~」が開かれている(会期は9月27日(日)まで)。白泉社の月刊少女マンガ誌『LaLa』は1976年の創刊で、2026年に50周年を迎えた。毎号の連載(雑誌に、続き物として少しずつ作品を載せていく形式。単行本はそのあとにまとまる)を50年ぶん積み重ね、今回は総勢76名の作家による原画200点以上がひとつの会場に並ぶ。少女マンガは、大きな瞳やコマを飛び越える感情表現、心のなかをそのまま画面に出す描き方を独自に育ててきた——その進化を、時代順の原画で一望できる。当時の雑誌を手に取れるコーナーや歴代の付録の展示もあり、“読者だった時間”ごと展示になっている。

💡 話せるタネ雑誌の連載は、「毎号、締切がくる」表現だ。読者が次号を待つあいだも、作家は次の原稿を描いている。50年分の原画が一室に並ぶと、それは同時に「50年ぶん、途切れなかった締切の記録」でもある。
メディアアート🇯🇵 東京・虎ノ門(9/27まで)

物の表面に映像が“憑く”——プロジェクションの先駆者、日本初の大規模個展

虎ノ門ヒルズのTOKYO NODEで「トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま~魔術、メディア、アート~」が開かれている(会期は9月27日(日)まで)。トニー・アウスラー(1957年生まれ)は、映像・彫刻・音・光・言葉を組み合わせるマルチメディアの作家。平らなスクリーンではなく、立体物の表面に映像を投影するやり方を早くから手がけ、いまのプロジェクションマッピングの先駆けになった。会場には初期作から新作まで約50点が並び、うち半分近くが日本初公開だ。高さ15mのドーム空間を丸ごと使ったインスタレーション(部屋や空間そのものを作品にする展示形式。壁の絵や台の彫刻と違い、中に入って体験する)《Chimera》も出品されている。この規模の個展は、日本で初めてになる。

💡 話せるタネスクリーンの中にあるはずの映像を、物の表面に引きずり出す——アウスラーの作品は「画面の外へ出た映像」だ。スマホもテレビも四角い枠に慣れきった目には、「映像が物に憑く」感覚が新鮮に刺さる。
映画🇯🇵 東京・渋谷(9/25まで)

物語のない映画90本が、渋谷で渦を巻く1週間

渋谷のシアター・イメージフォーラムで「イメージフォーラム・フェスティバル2026」が開かれている(9月19日(土)〜9月25日(金))。40回目を迎える実験映画(物語や商業性より、映像・音・時間そのものの表現をさぐる映画)の祭典だ。今年のテーマは「氾濫する映画」。国内外から集めた全90作品を一挙に上映する。筋を追う映画とは違い、光や動き、フィルムの物質感そのものを主役にした作品が並ぶ。上映後に作家と話せる回もあり、“映画を作る側”の思考にじかに触れられる。東京のあとは京都(10月16〜22日)、名古屋(11月7〜13日)、広島(11月24〜29日)、福岡(12月9〜13日)へまわる。

💡 話せるタネ映画は「物語を語る道具」だと思われがちだが、実験映画は、その手前を証明しにいく——光と時間だけでも、人の心は動く。絵でも音でも同じで、“何を描くか”の前に“どう見せるか”だけで勝負できる領域がある。
今週はここまで。
今週の6本は、置き場所の話でもある。美術館の壁、街の空き地、物の表面、映画館の暗闇、雑誌のページ——アートは一か所にとどまらず、あちこちからこちらへ手を伸ばしてくる。ルノワールが茶の間の“わたしたち”になったように、出会う場所が変われば、絵の見え方も変わっていく。今週末で閉じる展示も多い。渋谷の実験映画は9月25日(金)、虎ノ門と大阪は9月27日(日)まで。近づいてきたものに、今度はこちらから一歩ぶん近づく番だ。次号もお楽しみに。
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